[感想]Dog on It/Spencer Quinn
Dog on It: A Chet and Bernie Mystery
スペンサー・クイン 著/ペーパーバック/305頁
お薦め度:★★★★★
私立探偵のBarnie とその相棒である愛犬Chet が、行方不明になった少女の捜索依頼を受ける。自らの意志で家出したのか、それとも誘拐なのか。失踪の真意がつかめぬまま、Barnie と Chet事件に巻き込まれて行く……。犬の視点から描かれた、楽しくて、優しくて、そうして時折じんと心にしみる物語。
チェット(Chet)最高!
とにかくその言葉しか思いつかない作品だ。
チェットの飼い主、というか相棒であるBarnie(バーニー)は、離婚ののち元妻に引き取られた息子と会うのを楽しみにしているさえない私立探偵。
さえないと言っても、腕っぷしは強いし、頭も切れる。ただ、お金を稼ぐということにしたたかでないために、どこかパッとしないのだ。
もしもこの物語が、バーニーの視点で描かれていたならば、おそらくはそこら辺にある無数のハードボイルドとあまり変わりのない出来だったのではないかと思う。
これども、犬のチェットの視点で物語を眺めてみると、これが驚くほどに魅力的な世界に一変するのだ。
警察犬学校で学んだチェットは(結局卒業はできていないのだが)ならばとびきり優秀かと言えば、どこかでちょいとずっこけている。
動物としての本能に忠実で、大事な場面でも食べ物のことが頭から離れないし、バーニーが考え事をしている時は、歯の間に挟まった食べかすが気になって仕方がない。プールを見ればザブンと飛び込み、気にいらない人間にはうなり声をあげる。
そんなチェットの視点で描かれた作品が面白くないはずがない。
本能に忠実なチェットの姿は、しがらみだらけの人間社会に生きる私たちにはこの上なく痛快だし、相棒のバーニーを心の底から尊敬し、愛する姿には、胸を打たれる。
この作品は、ミステリー作品であるのだから、本来ならば少女失踪事件に目を向けなければいけないのかもしれない。けれと、チェットとバーニーを見ているうちに、少女のことなどすっかり忘れてしまって、とにかく二人……じゃなくて一人と一匹が無事であることばかりを願ってしまう。
もしも作者が少女失踪事件に主眼を置いてこの作品を書いていたのなら、そういった意味では失敗であるのかもしれない。
けれどもしも、犬物語としては大成功だ。
2010年には続編が出るようなので、この作品がシリーズ物となることをぜひぜひ願いたいところ。
あっ、それから。
犬視点なので、チェットと犬の会話場面があるのかな?と思ったが、どういうわけか全くなかった。バーニーのことを考えすぎて、チェットは犬語を忘れてしまったのかもしれない(笑)



